Nursing&Education&Technology

看護とインストラクショナル・デザインを中心に、備忘録として残すブログです

Nursing & Education & Technology

看護師が医療・看護・教育工学について語ります。

「看護のためのシミュレーション教育」を読んで

ぼちぼち来年度の授業案を練らなければいけない時期となった。
まだぼんやりとではあるが、来年度はシミュレーション教育を本格的に取り入れていきたいと考えている。
大学院の科目履修を通じて、色々な理論を学んできたわけだが、どう考えてもシミュレーション教育は有効な教育方法としか思えない。

心肺蘇生コースでシミュレーション教育の経験はあるが、授業でどのように取り入れていくか、いまひとつイメージが湧かなかった。
ということで、来年度に備えてこの本を買った。

自分の関心領域ということで、とても興味深い内容で一気に読み終えてしまった。
印象に残った部分を中心に書いていきたい。

なぜシミュレーション教育か

看護に限らず、教育は「学習者中心の教育」ということが強く求められるようになった(当たり前なことのような気もするが)。
その変化に伴い、教育者の役割にも変化が求められてきている。
ひと昔前は「壇上の賢者」なんて表現されていたらしいが、これからは「学習者の伴走者」であることが必要と言われている。

そして学習者は、「教室で講義を黙って聞いている」ではなく、主体的に学習する(アクティブラーニング)していくことが重要だ。

PBLやTBLなど、色々なアクティブラーニングの教育方法が開発されているが、シミュレーション教育もその一環である。

近年は医療の高度化や高齢化、看護師の役割拡大などにより、現場の複雑性は高くなっている。
そのような状況でも安全に、質の高い医療・看護を提供するためには、シミュレーション教育が有効なのは当然の流れだろう。

またコロナ禍で実習時間が制限されていることも、この流れを加速させている。

シミュレーション教育に関わる理論

シミュレーション教育は、理論的にも有効であると裏付けられている。
中でも印象に残ったのがデールの経験の円錐
受動的であるより、能動的な学習経験の方が、学習定着率は高めることを証明している。

画像1を拡大表示

ちなみに本を読むだけだと、2週間後には読んだことを覚えているのは10%ほどらしい(恐ろしい・・・)。
読書をしたあとは、読書会でディスカッションしたり、ブログにまとめたりなんてすることは、理論的にも有効であるということがわかる。

学校でもそれは同じで、教科書や教員の話を聴くだけでは、ほとんど知識は定着しない。
反転学習はそういった点で、とても理にかなった学習方法といえる。

シミュレーション教育だと、2週間後でも90%は学習が定着しているとのこと。
90%は難しかったとしても、受動的な学習とは雲泥の差であることは明かである。
これはもう取り入れるしかない。

デールの円錐理論はほんの一例で、デューイの経験主義的教育論、コルブの経験学習論、ノールズの成人教育理論といった全体の骨格を支える理論や、ブルームのタキソノミー、ガニエの9教授事象、パリッシュの第一原理、ARCS+Vモデルといった具体的な教授方略を支える理論が、シミュレーション教育には盛り込まれている。
もはやシミュレーション教育を取り入れない理由が見当たらない。

シミュレーション教育の構造

一般的にはこのような流れをとる。

1.事前学習
2.ブリーフィング
3.シミュレーション
4.デブリーフィング
5.評価・まとめ

p.61

個人的には、「1.事前学習」から始まることが興味深い。
シミュレーションをやれば良いかというと、そうではない。
教科書を読んだり、動画教材を視聴したりすることも、やはり大切である。
学習した上で実践しないと、シミュレーションをするにも非常に効率が悪い。

だからシミュレーション教育を設計する際は、どこを目標とするのか、現状と目標の間に、どのような学習が必要となるのかを考えなければならない。

教育者の役割

さて、では教育者はどのような役割を担うことが必要であるのか。
ざっと思いつくのでも、授業設計・ファシリテーター・環境整備・シミュレーター操作・評価などが挙がる。

個人的に肝だと思ったのが、他者との協働である。
というのは、シミュレーション教育を1人で実施するのは、どう考えても難しい。
リアリティあるシナリオを作成するには臨床の方に見えてもらう必要もあるし、ハード面の準備も1人で全て行うには難しいだろう。

また1人で学習者全員のファシリをするのは無理であり、仲間に入ってもらう必要がある。
その際、自分の授業設計の意図や内容を、入ってもらうファシリテーターが読んでわかるようにすることが重要だ。

このように書いてみると、教育者の役割は従来と大きく異なり、よりマネジメント的な要素が強いことがわかる。
これはなかなか大変そうだが・・・その分やりがいもありそうだ。

まとめ

看護実践力を高めたいとすると、必然的にシミュレーション教育に着地する。
それはシミュレーション教育がコンテンツでなく、コンテキストを重視した教育であるからだ。
臨床は複雑な要素で成り立っており、定式化することは難しい。
だからこそやりがいのある仕事でもある。

シミュレーション教育は、授業でもそれを体感できる可能性を秘めている。
ただそのためには、目的に向かって緻密に授業を設計することが肝心だ。

もう春はすぐそこまで来ている。
気合いを入れて準備していきたい。