Nursing&Education&Technology

看護とインストラクショナル・デザインを中心に、備忘録として残すブログです

Nursing & Education & Technology

看護師が医療・看護・教育工学について語ります。

学習者中心の教育を実現するインストラクショナルデザイン理論とモデル

 

 

500ページ近くある読み応え十分な本。
インストラクショナルデザインに関心のある方はもちろん、これからの教育に関心のある方全員に読んでほしい。
理論や事例を踏まえつつ、15章に渡って「学習者中心」の教育を実現するためのアプローチについて論じられている。
一度読んだだけで理解できる類の本ではないが、僕が印象に残ったところを書いていきたい。

 

「学習者中心」とは何か


メインテーマであり、第1章でバッチリ論じられている。
この本で引用されている定義を要約すると

個々の学習者に焦点を当てること
McCombs & Whisler,1997
シンプルである。
なぜ学習者中心の教育が重要なのか。
本書では個人レベルと社会レベルの観点から、その理由が述べられている。

個人レベルでは、学習者は各個人が異なる速さで学ぶ。
時間に基づいた学習管理をしていると、当然理解度にバラつきが生まれる。
理解度が早い学習者にとっては、より成長できる機会が奪われ、理解度が遅い学習者にとっては、学習意欲が削がれるだろう。
当たり前すぎる事実かもしれないが、大抵の教育機関ではこのような状況が起きているのではないだろうか。
各個人に合わせた教育をすることで、はじめてそれぞれの潜在能力を引き出すことができる。

社会レベルでは、情報時代の現代では、肉体労働から頭脳労働へと変わり、これまで以上に質の高い教育が求められている背景がある。
知識はもちろん、知識をどう活用するか。
即ち「思考」することにより価値を置く社会となった。

このように書くと、社会の要請があって個々の学習者に最適化された教育が求められたように見えなくもない。
もちろんそれもあるけれども、もっと根本的な部分がある。
学習者が学び続けられるよう支援すること。
教育の目的はそこにあるのではないだろうか。
教室にいる全員を一定の基準に引き上げようとしては、学び続けるどころか、学ぶことが苦痛となってしまう。
学ぶことは本来楽しいこと。
個々の学習者に焦点を当てる教育は、学習に対する意欲を高め、自律した学習者へと成長させる。

 

課題中心型インストラクション


学習者中心と切っても切り離せないのが、「課題中心型」インストラクション。
本書ではTask-Centered-Instruction(TCI)と呼ばれている。
TCIは現実世界への学習転移に重きを置いている。
学びが机上で終わっては意味がなく、現実世界へのアウトプットが学習の成果である。
つまり授業者には、現実世界へ学習転移できるような学習を提供することが求められる。
何を持って現実世界への転移とするのかを定め、そのための知識・技術・思考をタスクに落とし込む。
そしてタスクを解決するための活動をデザインする。
学習者が活動に対して能動的に取り組めることはもちろん、学習者同士の協働も大切な要素である。
特にチーム医療が重要視されている保健・医療・福祉領域では、他者と対話しながら問題を解決する力が求められる。
試験前に暗記すればOKとなってしまうような学習では、現実世界への学習転移は難しいのではないだろうか。
テストがゴールではなく、現実世界に学習したことをどうアウトプットするか。
そこに合わせて行くことが大切である。

教育者の役割


次の2つの教授方法を、統制された環境下で実施し、達成された学習量を比較するという研究が行われた。
①教育経験の豊富な一流の教員が行う伝統的な講義
②教育経験は浅い教員がインストラクショナルデザインに基づいたインストラクション
さて、どちらの方が学習成果が高かったと思うか。
結果は②だ。
ここで得られたのは2つの知見である。
1つはどんなに素晴らしい講義であっても、能動的でなければ学習成果は伴わないということ。
2つ目は能動的な授業をデザインするためにはICTの活用が不可欠だということ。
②のインストラクションはクリッカーやオンラインクイズを使用していた。
ICTは能動的な学習(いわゆるアクティブ・ラーニング)と非常に相性が良い。
・視覚的で学習者の注意を引きやすい
・速やかにフィードバックができる
・積極的な学生だけでなく、どんな学生でもインタラクティブな授業ができる
・学習のログが残しやすい
僕がパッと思いつくだけでも、ICTのメリットは大きい。

これらのことを踏まえて、教員の役割とは何かを考えてみたい。
大学・専門学校の教育というと、従来は①のイメージである。
ただ学習成果には、高度な専門知識よりもインストラクショナルデザイン等教える技術のほうが影響力はあるという結果であった。
では教員は高度な専門知識が必要ないのかというと、もちろんそうではない。
高度な専門知識があるからこそ、何が大切なのかが見えてくる。
また大学は研究をする役割もあり、自身の専門分野に対する高度な知識があってこそ成り立つ。

看護では近年パートナーシップ制度がとられている。
教育は基本的に一人で授業計画を立案し、他の教員が何をしてるかは結構ブラックボックスだったりする。
学習者中心の教育とするためには、科目の専門家とインストラクショナルデザイナーがチームを組んで運ていく必要があるのではないかと思う。
専門家とIDerが対話しながら、授業をデザインしていけたらどんなに良いだろうか。

授業中は2人ともメンターでありファシリテーターとして授業に参加する。
授業時間外ではictを活用して、学習のモニターやアドバイザーとして参加する。
専門家がアドバイザー、インストラクショナルデザイナーはモニタリングしながら、OODAループを協働して回す。
できればTAがさらに1人いたりすると尚良い。

時間基板型システム内で個人に合わせたインストラクションを実装する際には、時間の制約においてマイペースな完全習得学習を実現くるための独自な方略を検討するための特別な注意を払う必要がある。考慮事項としては、複数の科目間で学習課題を統合することで学習時間を長くし、より真正な全体課題学習アプローチを提供することが挙げられる。必要なすべての学習目標を習得するまでに、学習者に「未完」という成績評価を与えることも、もう1つの選択肢である。
完全習得学習は学習課題をクリアしてはじめて次のステップに進める。
となると時間には当然ばらつきが出てくるわけだ。
では時間と制約は全くなくてよいのか。
と言われるとそうではないよなと思う。

まとめ

この本をまとめることは容易でないが、それっぽくまとめていきたい。
確実に言えることは、教育が大きく変わろうとしているということである。
個人に最適化された学習を提供すること、生涯にわたって学び続けられる自律した学習者を育むこと、学習を時間で図るのではなく課題の達成状況で図ること…etc

これらの変化の背景には、テクノロジーを基盤とした高度な知識社会が到来していることがある。
どうしても普段は目の前の業務に忙殺されてしまいがちだが、変わりつつある教育に合わせ、自分自身もアップデートし続けていきたい。