Nursing&Education&Technology

看護とインストラクショナル・デザインを中心に、備忘録として残すブログです

Nursing & Education & Technology

看護師が医療・看護・教育工学について語ります。

日本看護シミュレーション教育学会に参加してきた

オンラインで開催された日本看護シミュレーション教育学会に参加してきた。
福岡で開催される予定だったが、コロナ禍ということで全てオンラインとなった。

この学会の存在を知ったのも、そもそも最近だった。
シミュレーション教育を本格的に取り入れていきたいと考えているので、何か良い情報を探していたところ、まさにドンピシャな学会が存在していたというわけだ。
そしてオンライン開催であったため、開催日ギリギリまで受け付け可能だったのもラッキーだった。
興味深いテーマが目白押しで、かなり満足度の高い学会内容だった。
印象に残った内容を忘れないように残しておきたい。

会長公演:AI時代の看護教育

この会長公演がとても面白かった。
登壇された先生は、学生時代にiMacを購入し、そこから先端技術を使った教育に関心を持つようになったとのこと。
恐れ多いが、「気持ち,わかります」と共感を覚えた。
僕も初任給のボーナスでまず購入したのが、初代MacBook Airだったな。
懐かしい。

そんな先生の話で、印象に残っているのがコンセプト・ベースド・ラーニングゲーミフィケーション
先生の所属大学で開発された教材を紹介してくれたのだが、これがもう凄すぎる。
コンセプト・ベースド・ラーニングの考え方を、そのまま教材に具現化されているという印象をもった。

科目や診療科ではなく、人間のライフストーリーをコンセプト化し、教材上の地域・患者さんに対し、看護師としてどう関わっていくかということを学習できるよう設計されていた。

少し前に看護教育雑誌でコンセプト・ベースド・ラーニングに関する特集を読み、その重要性は認識していた。
しかしこうして実践例を目の当たりにすると、あらためてその学習の有効性を体感した。
コンセプト・ベースド・ラーニングという言葉だけ聴くと、なんだか難しく聴こえるかもしれないが、学習者にとってはとても自然な学習ができるのではないかと感じた。

またその教材にはゲーミフィケーションの考え方も取り入れられていた。
ゲーミフィケーションは、ゲーム的な要素を他分野に応用することをいう。

・ポイント
・勲章
・ランキング
といった要素を入れると、学習者はグッと教材に入り込みやすくなるという理論だ。
先生の話を聴いてるだけで、学習したくなってくるような仕掛けが教材に組み込まれていた。

ゲーミフィケーションは言葉としては知っていたが、僕はまだ取りれられていない。
教材開発する際は、是非とも取り入れていきたい考え方だと感じた。

公演の中で、「教育AIが変える21世紀の学び」という書籍が紹介されていた。
その中でコア概念という考え方があるらしい。
それは「転移を可能にするために、学生が理解しなければいけない最も重要な概念」ということ。

コンセプト・ベースド・ラーニングにも通じるが、情報技術や専門性の発展により、20世紀型の詰め込み学習は明らかに現代にマッチしない。
知識を丸暗記するのでなく、各領域や科目において、重要なコンセプトを学習することで、本当の意味で臨床で活用できる学びになると解釈した。

例えば自分はクリティカルケアの授業を担当しているが、そこで学んでほしいコンセプトは何なのか。
ただICUやHCUの知識を学習するのでなく、看護師として汎用性の高い学習をコンセプトとして示し、それを教材として学生に伝わる授業をしていきたいと感じた。

向後先生による基調講演:考える実践者から研究者へ

向後先生の話は、期待通り、いや期待以上に面白かった。
中でもレッスン/ゲームモデルは、非常にわかりやすく、かつ納得する内容だった。
テニスの話も交えつつ、実践と理論の往還が研究として結実させていくことが大切なんだと感じた。
そしてこれからの教育実践はデザイン研究なのだということを学んだ。
難しい話ではなく、普段やっていること、すなわち「分析→デザイン→実施→評価」というプロセスが、そのまま研究になるのだということ。
現実的、かつより良い実践につながるということで、僕も取り組んでいきたい。

社会情動スキルの話も興味深かった。
社会情動スキルは以下のように定義されている。

(a)一貫した思考・感情・行動のパターンに発現し、
(b) 学校教育またはインフォーマルな学習によって発達させることができ、
(c)個人の一生を通じて社会・経 済的成果に重要な影響を与えるような個人の能力」

OECD(2015)

「努力することができ、努力が認められることで生涯にわたって成長する」という向後先生の言葉があったが、一貫してポジティブな思考・感情・行動パターンを積み重ねていけば、人は生涯にわたって成長するし、逆であれば成長することが難しい。

「フィードバック」が教育では大切だが、努力したプロセスとその成果をフィードバックすることで、学習者の社会情動スキルも高まるのかもしれないと感じた。

社会情動スキルは、一言でいえば「人柄」のようなもの。
高い人は、放っておいても勝手に成長するが、問題はこれが低い人に対してどう関わるか。
社会情動スキルの概念を意識し、学生にどのようなフィードバックをするべきなのかを考えていく必要があると感じた。

基調講演:人工知能やヴァーチャルリアリティを活用した教材開発の実践事例

このパートでは看護分野でなく、情報分野の先生の講演であった。
看護でないのが逆に新鮮で、異分野の実践だからこそ学ぶべき点が多々あった。

教師と人工知能が協働して学習者を支援する事例があった。
AIが学習者の学習データを踏まえて、どの学生が順調で、どの学生がつまづいているのかをチェックしてくれる。
教員はそのデータを踏まえ、学生に関わっていく。

まさにこれからの教育という感じだ。

看護であればどうだろう。

例えば技術練習の様子を動画で撮影し、AIが学習者の動きを判定し、介入ポイントを導き出してくれる、みたいなことも可能になってくるのかもしれない。

これはかなり高度な技術が要求されるので、やはり情報技術に長けた人たちとのコラボレーションが必要になってくるだろう。

しかし看護教員であれ、情報技術を完璧でなくとも、習得していく努力は必要だろう。

またAIまでいかなくとも、例えば学習成果は必ず点数化し、スプレッドシートやエクセルを工夫すれば、個々に応じた介入はある程度可能な気もする。

事前テスト・事後テストはもちろん、形成的なテストも小まめに実施し、学習者のアウトプットをデータ化してマネジメントしていくことが、これからの教員には求められるのかな、と感じた。

まとめ

このほかにもたくさん見所があった。
コロナ禍で様々な困難があっただろうが、ピンチをチャンスに変えていこうとする姿勢が、新たな教育を生む源なんだと強く感じた。

今回は聴講のみだったが、次回は自分も発表できるように頑張っていきたい。