Nursing&Education&Technology

看護とインストラクショナル・デザインを中心に、備忘録として残すブログです

Nursing & Education & Technology

看護師が医療・看護・教育工学について語ります。

シミュレーション教育を実践してみて

コロナウイルス の感染拡大により、世界にはあらゆる制限が生じている。
教育も例外ではなく、多くの教育機関がオンラインのみで運営されているのが現状だ。

ところで教育の一形態に「実習」がある。
医療系は特に実習が多い分野であるが、これまで通り実習をすることが困難となった。

実習の代替として、シミュレーション教育を実施している機関も多いのではないだろうか。

シミュレーション教育はコロナウイルスより以前から、注目されていた教育方法ではあった。
というより、既に行っていた施設も多くあっただろう。

私もこれまでも取り入れていたが、この状況下でシミュレーション教育をすることが明らかに増えた。
特段目新しい内容ではないが、そのtipsをまとめておきたい。

※記載していることは、あくまで個人的な実感に基づくものです

シミュレーションの流れ

「シミュレーション教育?役割決めて実際にやってみればいいんでしょ?」というようなことを、数年前の僕は思っていた。

しかしそう単純な話ではなく、準備からシミュレーション、その振り返りまで含めて、シミュレーション教育なのだと実感している。

私のシミュレーション教育フローはこんな感じである。

当日までにやること
0. オリエンテーション
1. 事前学習
2. 役割分担
当日にやること
3. 学習環境の準備
3. ブリーフィング(実施する際のオリエンテーション
4. 実施
5. デブリーフィング
後日やること
6. 振り返り or 評価

では1つずついってみよう。

0. オリエンテーション

まずは学生に何をやろうとしているのか、その目的が何なのかを知ってもらうことから、シミュレーション教育は始まる(ような気がする)。
患者の事例とともに、いつまでに何を学習してほしいのか明確に示す。
紙面事例だとどうしても情報量に限界はあるため、不明な点などは遠慮なく質問するように伝えとく。
また提示した事例に対し、どの場面でシミュレーションをしようとしているのか、この時点で明記しておくと学生も準備しやすいだろう。

1. 事前学習

ただシミュレーションを実際にやってみるだけでも、もしかしたら良いかもしれない。
しかしシミュレーションで目指すところの1つに「知識を活用する」ということがある。
であれば、まずは設定した状況に対応するための周辺知識が必要である。
仮に何の知識が無いまま行っても、何となーくやって終わってしまうだろう。

このフェーズが指す学習は、もしかしたら2種類に分別できるかもしれない。
ひとつ目が、事例を理解したり、対応するための知識。
要は教科書などに書いてあるような知識だ。
2つ目が状況の分析。
例えば、「術後患者の初期対応」というテーマでシミュレーションをやってみるとする。

基本データ
・男性・40歳代・妻と4才の息子と3人暮らし
胃がんと診断され、開腹で胃全摘術を実施
・帰宅は遅く、外食が多い
・初めての手術
術直後の患者の受け入れ対応・フィジカルイグザミネーションを実施しましょう

簡単な事例を作ってみた。
情報は少ないかもしれないが、この状況を分析してみると、いくつかの仮説は立てられる。
例えば
・外食が多いということは、生活習慣から高血圧とか糖尿病があるかな?
・家族も不安が大きいかもな。家族看護のニーズもありそうだ。
・初めての手術だったわけだから、不安もとても大きいだろうな。

看護は手順通りやることも大切だが、患者さんの置かれている状況を考慮して関わることが大切だ。
さらに具体的に表現すると、患者さんがこれまで生きてきた文脈に沿った関わりが「寄り添う」という1つの形なのかもしれない。
現場ではこれらをタイムリーにやるが、これは教育なので事前に「考える」時間をしっかり確保することで、思考と実践が繋がってくるのかもしれない。
テキストにはざっくりとしか書かれていない「実践知」を、学習者は事例を分析することを通して学んでいく。

2. 役割分担

シミュレーション当日までに、役割分担もしておいてもらう。
当日ではなく、前日までに決めておく方が良いと感じた。
シミュレーションの内容にもよるが、よりリアリティを出すためには準備が必要だ。
先ほどの事例で言えば、患者役には寝衣を着てもらう必要があるし、場合によっては個人で愛用している物を持ってきたもらうこともあるかもしれない。

3. 学習環境の準備

ここからはシミュレーション当日にやることである。
まずは物品などを準備する。
よりリアリティを追求するために、できる限りリアルな物品を準備することが大切。
点滴やドレーン、血圧計といったシミュレーションを実施する上で使用する物品を揃える。
物品を揃えるだけでは終わらない。
このフェーズは学習環境の準備である。
学生が学習しやすいよう、環境を整えるところまでが準備だ。
シミュレーションは全員が実施できるわけではないので、周りで観察している学生もいる。
観察者役も重要で、客観的な視点だからこそ、気付けることもある。
観察者が見やすいよう、テーブル・イスを邪魔にならない程度に設置する。
自分(ファシリテーター)の分も忘れずに。
それから黒板またはホワイトボード。
これはあとで振り返る際、シミュレーションの中で起きたことを時系列に書いていく。
「ここは振り返りたい」という場面をメモするのに使用しても良いだろう。
場合によってはタイマーとストップウォッチもあってよいかもしれない。
タイマーは目標とする時間の指標として、ストップウォッチは実際にかかった時間を計測するために使用する。
ただ時間を測ることで焦らせたり、早ければよいというものでもない場合もある(もちろん時間をかければよいものでもない。だから私はタイマー推奨派)。
そこは状況に合わせてで良いだろう。
あとは飲み物。
実施してデブリーフィングをしていると、あっという間に時間がかかってしまう。
喉がカラカラな状態で学習しても効果的でないので、学習者に飲み物を持ってきてもらおう。

画像2を拡大表示

イメージ図↑

4. ブリーフィング

準備ができたら、次はブリーフィング(オリエンテーションのようなもの)を行う。
ここで私がやることは以下の通り。

・事例・役割の確認
・観察者役は気になった場面などをメモすること
・シミュレーションする場面の詳細な設定
・タイムスケジュール
・失敗してもOK
・建設的に話し合いをしよう
・患者役のみに極秘情報

実施する前に、まずは事例の確認やスケジュール、目的などを伝える。
タイムスケジュールは以下のように設定している。

・ブリーフィング:10min
・実施:30分
・休憩:10分
デブリーフィング(振り返り):60min

ダラダラと実施しても、集中力が切れてしまう。
特に観察者役は言葉を発しずに座っているので、「観る→見る」になってしまうことが懸念される。
また長すぎても、振り返りの際のポイントがぼやけてしまう。
どこをシミュレーションしたいのか、状況を徹底的に絞り、具体的に示すことが重要だ。

ここで大切にしていることが下2つ。
①失敗してもOK
シミュレーションの実施者は、周りに観察者として学生や教員に囲まれながら実施するので、当然緊張するだろう。
しかしシミュレーションの目的は、いかにうまくやるかではない(その場合もあるとは思う)。
シミュレーションを通して、つまり実際に身体を動かし、仮想患者とコミュニケーションをとったりすることで、気づきを得ることである。
だからうまくやろうとしないで良いという意味で、「失敗してもOK」と伝えるようにしている。
②建設的に話し合いをしよう
実施したあとは、デブリーフィング(振り返り)の時間がある。
前述したように、「上手・下手」を評価する時間ではない。
「〇〇の部分がダメだったと思う」というようなニュアンスの意見ではなく、互いが建設的に意見を交わし、1つでも多くの気づきを共有し、より良い実践をするための対話をしてほしい。
こうした願いから、「建設的に」という表現で学生に伝えている。

最後にある「患者役のみ極秘情報」は、患者役のみに伝える情報である。
例えば苦痛や痛み、不安や希望といった目に見えない。
・ナースコールを押したいが、自分が押していいのかと遠慮してしまう
・痛みがあって眠れない
・仕事の進捗状況が心配
目に見えないことに配慮できる看護師であってほしい。
そんな願いがあり、患者役にはそのような感情や苦痛などを抱えているということをイメージして演じてほしいと伝える。
このような準備をしておくと、患者さんの置かれた状況について、より深く考えることができる印象がある。

5. 実施

実施する前に、これからやろうとしているシミュレーションの状況を、さらに具体的に伝えておく。
例えば「A氏は9時に手術室へ入室し、16時に帰ってきました。家族は控室で待機しており、医師から手術状況の説明を受けているところです。リーダーNsから、一通り観察できたら状況報告するよう指示がされました。A氏が帰室しところから、リーダーNsへ状況報告するところまでやってください。時間は30分を目安にしましょう。」といった感じである。
これでもか!というくらい、状況を具体的にした方が、より現場に近いシミュレーションができるのではないだろうか。

実施中はファシリテーターはホワイトボードに実施されていることを時系列で振り返れるようメモしていく。
バイタルサイン値や観察していることは、それらしき行動を実施者がしていることを確認できた時点で口頭で伝えている。
もしバイタルサイン測定に重きを置いたシミュレーションであれば、しっかり測定してもらう必要があるだろう。
しかしそうではない場合、「測定すること」が目的でないため、割愛した方が効率がよい。
さらにこちらが情報を設定できるので、これらの情報からこう考えてほしい、というこちらの意図も伝えやすいというメリットもある。

6. デブリーフィング

ここまでやってきたことは、全てでブリーフィングに通じている。
話し合いに入る前に、まずは実施してくれた看護師役・患者役に拍手を送る。
これをワンクッション入れるだけでも、心理的安全性というか、建設的に話あうための土壌に繋がる気がしている。
できれば話し合いに入る前に、水分を摂ったりお手洗いに行くなど、一息してもらう時間をつくる。

その間にファシリテーターは学習環境を整える。
今度は全員で話し合いやすいように、丸くなるようにイス・テーブルをセッティングして、かつ時系列で追いやすいようにホワイトボードを見やすい位置にセッティングする。

画像2を拡大表示

セッティングして休憩を挟んだら、いよいよデブリーフィングを始める。
ファシリーテーターはホワイトボードを活用し、時系列に沿って進行していく。
この時に私が意識している点は、How Toに留まらず、Whyを投げかけ、皆で言語化(Knowledge)していくことにある。
「なぜ、あの場面でまず〇〇をしたのだろう?」
「受け手はどのように感じた?」
「客観的に見ていてどのように感じた?自分だったらどうした?」
ファシリテーターは基本的に質問を投げかけ、相槌を打つことに専念する。
学習者が自身で気づき、考え、言語化していくことが大切だ。
ただし、学習者に着目してほしいポイントは明確にしておくべきだ。
シミュレーションのメリットは、状況をコントロールできることにある。
ポイントを意識しながらファシリテートすることで、はじめて効果的なシミュレーション教育がなされるのではないかと思う。
またポイントをテキストとして残しておくと、誰がやっても一定の質を担保できる。

実際にでブリーフィングをやってみると、あっという間に時間が経つ。
60分でも足りない時がある。
しかし長すぎても、学習のポイントがぼやけてしまう。
やはり60分程度でまとめられるポイントに絞って、シミュレーションを作っていくことが重要だと思われる。

デブリーフィングの最後に、ファシリテーターはまとめをする。
学習者の意見を用いながら、ファシリテータが意図していた狙いをギュッとまとめて伝える。
あくまで「コンパクト」にである。

6. 振り返り or 評価

このフェーズは後日に実施する。
やり方は内容次第だが、実践した内容を個人でじっくり振り返る時間をつくることで、学んだことがより定着することを目的としている。
看護であれば、シミュレーションで提示したバイタルサインや身体所見から、その場面における患者評価をしてもいいだろう。

実践した技術(例えば心肺蘇生法や吸引など)の振り返りをしたいのであれば、評価というよりは実践した技術自体を振り返られるワークシートを作成し、活用してもよいだろう。

要はシミュレーションして学習した”気分”で終わらせることなく、個々の中に学習を定着させることが目的だ。

ファシリテーターは、記載してもらった用紙を提出してもらい、個々にコメントという形でフィードバックすることで、学習者の学習意欲をより高められるだろう。

まとめ

長々とシミュレーションについて語ってきた。
あくまで何の裏付けもなく、自分が実際にやってみて、少しずつ改良した内容をまとめたものである。

シミュレーション教育は、一度に多数の学習者に対応することは難しい。
1グループ多くても6人くらいだろう。
1人でやるには限界がある。
そのため、ファシリテーターによって提供される内容がばらつくことなく、一定の質を維持できるよう、システムとして作ることも重要である。
そんな思いもあって、ひとまず現段階でトライ&エラーしたことを書き残してみた。

改めて思うのは、0から6段階の全てが効果的に機能して、ひとつのシステムとして成り立っているのだということだ。
これはインストラクショナル・デザインの考え方に通じるものがあるのかもしれない。
今後もTry & Errorを繰り返し、より良い教育ができるようアップデートしていきたい。

ちなみに今後Tryしてみたいことは

デブリーフィングの様子を議事録として残したい
・アナログで運営しているが、動画で撮影して振り返りに活用してみたい
タブレットなどを活用して、モニターも表示させながらやってみたい(内容によるが)

最後までお読みいただき、ありがとうございました!