Nursing&Education&Technology

看護とインストラクショナル・デザインを中心に、備忘録として残すブログです

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看護師が医療・看護・教育工学について語ります。

キャロルの時間モデル

昔から学校などでよく聞くのが「あの学生は頭が良い」という言葉である。

・この言葉は何を意味しているんだろうか?
・何をもって、頭が良いとされるのだろうか?
・そもそも良い・悪いってあるのだろうか?

とくに意図せずに、何気なく使っている言葉ほど、実は重要な意味をもっていたりする。
今日はこの言葉を「キャロルの時間モデル」の観点から考えてみたい。

キャロルの時間モデルとは

例えば、A君とB君が「足し算」についての授業を受けたとしよう。
授業後に小テストをしたところ、A君は100点でB君は20点だった。
テストの点数だけ見れば、おそらく「A君は頭がよい」と言われるだろう。
じゃあ「B君は頭が悪いのか?」と問われたら、皆さんは何て答えるだろうか。

J・B・キャロル(Carroll)は「学校学習モデル(時間モデル)」という理論を提唱した。
キャロルはこの理論を通して、学習の差は「能力差ではなく、かかる時間の差で決まる」と述べている。

つまりキャロルからすると、「B君は頭が悪いわけではなく、学習に時間がかかるだけである」ということになる。

かかる時間に対してどれだけ学習できたかを「学習率」という。
つまりA君は「学習率が高い」だけであり、B君は「学習率が低い」ということになる。
学習率は以下の式でモデル化されている。

学習率 = 学習に費やされた時間 / 学習に必要な時間

この理論の意味するところは、とても納得のいくのが実感である。
そして極々当たり前のことを言っている。
しかし現実はどうだろう。
「頭が良い」という言葉が示す通り、「頭の良し悪し」で学生を捉えてしまってはいないだろうか。

幼い頃から学習環境に恵まれて育っている人と、そうでない人を比較すれば、差が生じるのは当然だろう。
また生まれつき、理解するまでに時間がかかる人もいるだろう。
だからといって、それらの人は理解ができないのか、と言われればそういうわけではない。
時間をかけてあげればできるのである。

学習率を高めるには

キャロルは、「学習に必要な時間」と「学習に費やされる時間」を左右する要因(変数)として5つ挙げている。

学習に必要な時間を左右する要因は
【課題の適性】・【授業の質】・【授業理解力】

学習に費やされる時間を左右する要因は
【学習機会】・【学習持続力】

キャロルの時間モデルの公式を、変数に落とし込んでみると、教育を改善するヒントが見えてくる。

・もしかしたら【授業の質】に問題があるのかもしれない
・個人学習できる教材を作って【学習機会】を増やせばよいのかな
・もっとイラストや図を使えば、【授業理解力】が高まるかもしれない

教員という仕事は多岐にわたり、キャロルの時間モデルを完璧に実践するのが難しいのは良くわかる。
ただキャロルの時間モデルをベースに考えると、より学生1人1人に合った教育に合った教育を実践するヒントが見えてくるのではないだろうか。

まとめ

「あの学生は頭が良い」という言葉から、キャロルの時間モデルについて述べてきた。
このモデルに立ち返ることで、「頭が良い・悪い」と学習者の能力ではなく、「B君にはどのように関わっていくことが効果的だろうか?」と教育をより良くしようという問いが生まれてくる。
安倍元首相が述べていたように、「個別最適化」がこれからの教育に求められるだろう。

もし学生の学習成果が芳しくなかった時は、キャロルの時間モデルに立ち返ってみると、何かヒントが得られるのかもしれない。